忍者ブログ
目的に応じて適当に
[306] [305] [304] [303] [302] [301] [300] [299] [298] [297] [296
Posted by - 2024.05.04,Sat
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

Posted by よあ - 2013.02.06,Wed
『冒険者を優遇するのは結構だけどさ、程々にしておいて欲しいよね。
 そりゃ日常生活のフォローをするのは良いと思うよ? 迷宮暮らしってつまり非人間的な暮らしの頂点だし、どんな人間だって快適な生活がしたいだろうし、そう考えるとエトリアは冒険者の街だもん、余所じゃ冒険者ってだけで迷惑顔されるんだから、ここでくらい大事にされたってバチは当たらないさ。
 でもさ、孤児院はやり過ぎじゃないかな、冒険者遺児のための。子供ができたら、それは親が責任を持って育てるべきだと思うんだよね。冒険者なんていつ死ぬか分かんないような仕事はやめて、……うん、孤児院じゃなくて、職業訓練所とか作れば良かったんだ。その方がずっと、街のためにもなったよ、きっと。
 だってあの孤児院って、親が迷宮から帰って来ないことを前提にしてるんだよ。自分が死んでも子供は大丈夫だからって、死にに行く馬鹿がどれだけ居ると思ってるんだろう。子供の方は孤児院に居る限り、「自分は馬鹿の子供です」って看板背負って生きてるようなもんなのに、自覚もなしに子供を裏切って捨てるなんて、そんなの人間のすることじゃないよ、鬼か悪魔か、って言うか悪意がない分タチが悪いよ。オマケに頭が悪いなんて最悪だって、君もそう思わない?』
 バードが漏らした長い愚痴に、赤毛の幼馴染は返事をしなかった。しばらくの沈黙の後、痺れを切らして「ねぇ」と畳み掛けると、彼は渋々といった様子で口を開いた。
『自分の親を、そんな風に言うもんじゃない』
 その声の無機質さ、酔いではない何かが醒める感触を、はっきりと覚えている。



 バードが帰り着いた宿屋の一室は、いつも通りの暗闇と静寂に包まれていた。
 暗闇と言っても月影星影程度の明るさはあるし、耳を澄ませば穏やかな寝息を聞き取ることもできる。寝息の主をうっかり起こしてしまわないように、バードは忍び足で自分のベッドへと向かった。
 糊の効いたシーツに腰を下ろしさえすれば、あとは部屋が暗かろうが明るかろうが関係がない。装身具を外し、帯を解き、服を脱ぐ。水差しの水を洗面器に張り、身体を簡単に拭く。手探りで引っ張り出した寝巻きに着替え、髪を緩く編んでしまえば、就寝の準備は完了である。
 その頃には目もすっかり部屋の暗さに慣れていて、バードは友人の寝顔を見やり、溜息をついた。
 まだ十番鐘も鳴っていないというのに、赤毛のソードマンは実によく眠っていた。寝姿の行儀の良さは、起きている時の彼を知る者であれば死んでいるのではないかと疑いたくなるほどだ。鼾を掻かないのは勿論、寝返りすら打たない。
 妙なところで折り目の正しい奴、という彼に対する評価は、バードの中でここ十年ほど揺らいだことがなかった。より厳密に期間を求めれば十一年と四ヵ月、初めて出会ったその日からである。
 バードが育ったのは執政院ラーダ直轄の、冒険者遺児を集めた孤児院だった。
 孤児院の子らは、一般市街の子供達と遊ぶことはまず無い。一般市街の子供達が孤児院の周辺に寄り付かないからだ。善良な堅気の親は、子供に強く言い聞かせる──「冒険者なんてならず者の子供と遊んではいけません」と。
 だから、あの緋色の頭とぶつかった日のことはよく覚えている。まだバードでなかった金髪の少年、つまり自分は、鼻歌交じりに空を見上げて歩いていた。相手は家の仕事の手伝いの最中で、宅配の荷物を抱え、近道をしようと院の敷地を駆けていた。一方は空を見ていて、一方はとても急いでいて、しかも周りは背高のっぽの草むらだったのがいけなかった。思い切りぶつかって、二人とも草をへし折って転んだ。
 地面から身を起こしながら相手を見て、会ったことない子だ、と思った。勢い良く走っていたせいだろう、自分よりも一層派手に転がっている。身なりから察するに、孤児院の子ではない、旅人でもない。──自分なんかが話し掛けてはいけない子だ。
 直感して、脱兎の如く草むらを逃げ帰ろうとした。
 その背中に、思いもよらぬ言葉が掛かった。
『ごめんな、今度ちゃんと謝るから!』
 足は止まらなかったが、少しだけ遅くなった。相手の言葉に、戸惑い、驚いた。
『オレは怪我してないから、平気だから!』
 向こうも起き上がったのだろう、ガサガサと草の揺れる音。それが徐々と遠ざかっていく。
『だから、また今度な!』
 敷地に立ち入ったことも、自分とぶつかったことも、他言せず忘れてしまえば良いものを、少年はあろうことか「また今度」と言った。

 相手のことなど、質素なりに小奇麗な服装と、鮮やかな髪の赤さ以外には思い出せなかった。と言うか、それ以上見る前に逃げ出してしまった。
 しかし、それは些細なこと。
『こんにちは。こないだは、ごめん』
 わざわざ執政院の窓口(係の者もさぞ困っただろう)を経て、孤児院に挨拶に来る子供など、心当たりは他になかった。



 彼は馬鹿なのだろう、と思う。限りなく確信に近く、バードはそう思っている。
 愚直。この二文字以外に彼──赤毛のソードマンを語るに相応しい言葉はなかったし、今のところはあえて他を探す必要もなかった。
 だが、古い喜劇の主人公のような、滑稽なほどの真っ直ぐさが、時々眩い。彼のことを内心で笑いものにしながら、ふと、人を指さし笑う自分の姿に気付いて愕然とする。轡を並べて生きることは、きっと元々無理だったけれど、少しばかり参考にするくらいは許されるんじゃないだろうか。
 とはいえ、バードは己の寝相の悪さに重い至って溜息を吐いた。教わったり感化されたりで直るものなら、苦労はしないのだ──捩じ曲がった性根だって同じことである。

■幼馴染■
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
よあ
自己紹介:
修行中の身。
自分に作れるものなら、何でも作るよ。
ブログ内検索
最新CM
最新トラックバック
アクセス解析
Template by mavericyard*
Powered by "Samurai Factory"
PR
忍者ブログ [PR]