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目的に応じて適当に
Posted by - 2024.05.04,Sat
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Posted by よあ - 2013.02.06,Wed
迷宮内の過酷な環境は肉体と精神を疲弊させ、冒険に必要な装備品の数々を消耗させてゆく。
 だからこそ冒険者達は自主的に休日を設け、体調や装備の調整を図るものだ。例外といえば余程の食い詰めか、何らかの事情で探索を焦っているパーティくらいだろう。そのどちらにも属していない彼は、今日一日の休暇をどう過ごそうかと考えながら、長鳴鶏の宿の長い階段を降りた。
 アルケミストという職業柄、装備の点検は毎日欠かさず行うことにしている。術式を起動するためのアタノールに不具合があっては戦闘どころの話ではないし、薬品が漏れでもしたら大惨事だ。
 日課が多い分、たまの休日であっても消耗品の補充、あとは衣服のほつれを繕うくらいで、特別にやるべきことは思い付かない。
 「雨の日は休み!」と言い出したのは、ギルド創設者でありパーティリーダーでもあるソードマンの少年である。天候だけを基準にするのはおかしい、と他のメンバーに散々突っ込まれ、カレンダーの上で規則正しく休日を設けることにはしたのだが、それでも雨天休日制度は健在だった。雨の中を樹海入口まで歩いていくのは億劫なので、誰が言い出すでもなく定着してしまったのだ。
(こんな暢気なギルドが、よくもまぁ……)
 踊り場の窓はすっかり曇り、外の様子が見えない。革手袋の右手でガラスを拭うと、空模様は昨晩と変わらず、霧のような小雨が降り続けていた。
 外での活動に適した天候とは思えないのだが、ソードマンはとっくに宿を出て剣の稽古に励んでいる。体力バカの彼には「冒険の休日」は多々あれど、「体を休める日」など不要なのかも知れない。相部屋のはずのメディックは前夜から宿に戻った様子がなく、バードも右に同じ。朝食の席で顔を合わせたパラディンは、故郷への手紙を書くと言っていたから、部屋に篭っているのだろう。何にせよやるべきことがあるというのは羨ましいことだと、アルケミストは頬を掻いた。
 執政院と師への報告の習慣も、絶えて久しい。新しい魔物やアイテムにお目にかかっていないのだから仕方がなかった。レポートではなく近況を記した手紙でも、と考えたところで、何を書けばいいのか皆目見当がつかない。
 ロビーは閑散としている。習慣通り早朝に起床し、朝食を取り、二度寝の甘美な幸福を堪能した後なのだから当然だった。地上の天候など何処吹く風、多くの冒険者達は樹海へと赴いているだろうし、そうでない者も自分なりの時間の潰し方を見つけている頃だ。
 写本室にでも行くか、と玄関に足を向けかけたところで、アルケミストはロビーの隅に見知った顔を見つけた。同じギルドに属するレンジャーである。
 ソファに腰掛けて退屈そうに本をめくっている。豊かに波打つ金髪を高い位置でまとめているのだが、いかにも読書の邪魔になりそうな前髪は普段通りで、顔の右半分がすっかり隠れていた。
「その髪、邪魔じゃないか」
 声をかけるとレンジャーはチラリと目を上げ、すぐさま本のページに落とした。
「お前こそ、手袋は要らないんじゃないか」
「無いと落ち着かないんだ」
「私も同じだ」
 雨の音の合間に、パサリ、紙をめくる音が混じる。ページを覗き込んでみれば、有名なサーガの触りを記した下に、色はないが味のある挿絵が描かれていた。
 その本はギルドのバードの青年の持ち物だったはずだが、と指摘すると、彼女はあっけからんと「借りた」と言った。
「無断でな」
「無断でか」
「バレなければ問題ない」
 本は、特に挿絵のあるものは貴重品だ。一冊を作るのに大変な手間と時間を要する。軽々しく無断借用して良いものとは思えないのだが、
「……気になって」
 弁解めいた声が漏れた。
「世界樹の迷宮と、エトリアの街の秘密が」
 閉じられた本の表紙には『迷宮鳴歌集』と、元は金箔で飾られていたらしい文字が見て取れた。
 レンジャーがソファを軽く叩く。アルケミストは彼女の左側に腰掛けた。戦闘中は別として、彼女は自分の死角──右側から話しかけられることを極端に嫌う。
「私達は迷宮の謎を解き明かした。あの樹海が生まれた理由も知った。──けど、納得できない」
「何が?」
「エトリアが『冒険者の街』になった理由さ」
 彼女は少々乱暴に、本の表紙を指で弾いた。金色の髪が揺れる。
「長は、秘密は秘密であるべきだと言った。秘密を守るために体を張り、命を懸けて、……彼女達にも危ない橋を渡らせた」
「レンとツスクルな」
「分かってる。軽々しく呼ぶな」
 アルケミストの頬に、鏃のような視線が突き刺さった。軽い冗談のつもりだったのだが、レンジャーは未だに、あの先輩冒険者達を傷つけたことを後悔しているらしい。
「随分頭の悪いやり方だと思う。頭と、効率の悪い。秘密を守るなら、もっと他にやり方はあった」
「俺たちが駆け出しのうちに、殺してしまうとか?」
「……お前は時々怖いことを言う」
「例えばの話だ。あの頃の俺たちじゃ、彼女たちには絶対に勝てなかったろ」
「確かにそうだが」
 実際に対抗ギルドは幾つか潰されたようだ、とアルケミストの数倍は空恐ろしいことを言い、レンジャーは続けた。
「だけど長は、そうしなかった。それどころか大陸中に触れを出して、冒険者を集めた」
 気だるそうにソファの背凭れに沈み、ついでに持っていた本を突き出してくる。
「迷宮にまつわる詩をまとめたものだそうだ。これもラーダが協力しているんだと」
「宣伝の一環ってワケか」
「もちろんそれもある。こんなものを発行したがる人間がいて、しかも売れてるんだ。喧伝の成果と考えた方がいい。それだけの数の冒険者と、人々の関心を集めた……とね」
 ページをめくってみれば、奥付には確かに、「資料提供・編纂協力:エトリアラーダ執政院」と小さな文字で印刷されていた。
「冒険者たちのために、街の整備まで。凄まじい労力が必要だったろうな。人々の意識を変えて、設備を整えて、こんな宿まで作って。並の人間には無理だ。長は──ヴィズルという人は、とても有能だったんだと思う」
 レンジャーの深緑色の瞳に映っているのは高い天井、細工を凝らした照明器具である。その下には見事に磨きこまれたブラックチェリーのカウンターが横たわり、カウンター奥のキーボックスの数はゆうに百を越えていた。
 冒険者の暮らしは、野生動物や魔物を屠り、戦利品を糧とすることで成り立つ不安定なものだ。気性の荒い者、故郷を捨てるに足る事情を抱える者、夢物語に踊らされる馬鹿者──背景の違いはあれど、定住所を持たない彼らは往々にして胡散臭い目で見られがちである。
 だがエトリアに来れば、統治機関が諸手を挙げて歓迎してくれる。冒険者のための店があり、冒険者のための宿があり、冒険者のための法と制度が確立されている。エトリアに集う彼らの目的は、必ずしも迷宮の謎ではない。
「秘密を守るのなら、まずは隠していると気付かせないこと。それが自然なのだと思わせてしまえば、誰にも追及されないんだから。
 なのに長は、隠すどころか、人を集めた。そうして労力を割いて冒険者を呼び込んでおいて、殺していた。あんなに能のある人間が──私は気味悪く思うよ」
 レンジャーは憂鬱そうに呟く。
「秘密なんてものは、存在しなかったんじゃないか? いや、最初はあったのかも知れない、だけど長にとってはもうどうでも良かったんじゃないか。千年越しで秘密を守るのにも飽いて、気がふれて、あの頭脳で冒険者達をおびき寄せて、あの力で叩き潰して、……遊んでたんじゃないか……」
 言葉を重ねるうちに、彼女の瞼はゆるり、ゆるりと降り、やがて瞳を隠してしまった。
「考え過ぎ、だろうか」
 ぽつりと漏れたその問いが、アルケミストに向けられたものかどうかは定かではない。答えを期待するような声音でもなく、もしかするとそれは、レンジャー自身に向けて発せられたものなのかも知れなかった。
 それでも何かを答えようとして、アルケミストは僅かに口を開いた。
 だが、適切な言葉がどうしても出てこない。声を発することもできず、彼は結局、レンジャーの手に触れた。突然の接触に驚いた様子で、レンジャーが身を浮かせる。
「何」
「いや、その」
 慌てて手を離し、アルケミストは彼女の前に両手を翳して見せた。──革の手袋に包まれた両手を。
「秘密なんて、こんなものだろう?」
 レンジャーは一瞬、探るような目つきでアルケミストを見たが、それだけだった。溜息を吐き、己の右頬を撫でる。
「……私は長を、偉大で特別な人間だと思いたいんだよ」
「本人は喜ばないだろうな」
「まぁ、な。狂人と呼ばれるよりは、凡人の方がずっといい」
 いずれが真か知る由もなし。
 レンジャーは弾みをつけて起き上がり、姿勢を正した。僅かに乱れた髪を手櫛で整える。大胆に波打つ金髪は、背や顔にも容赦なく降りかかって鬱陶しそうに見えるのだが、その髪型が彼女にとてもよく似合っているので、誰も何も言わない。
 そう、案外隠しておけるものなのだ。違和感を感じる者はあっても、あえて暴きに来る者は少ない。例えば弓の弦に弾かれ、矢羽に切り裂かれて変形した頬だとか。あるいは、毒に爛れ炎に灼かれた両手だとか。
「あぁ、でも、もし長が、凡庸な心の持ち主だったとしたら」
 ──世界を作り変えたという木々の群れ、前時代の遺物も、隠そうと思えば隠し通せたはず。
「それはそれは……」
 それが出来なかったのは、きっとひとえに、彼が人間だったからだ。醜いものを隠そうとする弱さを持ちながら、そんな弱さや醜さを誰かに許して欲しいとも願う、浅ましくも普通の人間だったからだ。
 手袋の中の秘密をレンジャーに明かした日、アルケミストも金髪の中の秘密を知った。
 雨音を聞きながら、互いの秘密をこっそり語れる人がいる。それだけでこんなにも違うものか、とアルケミストは納得しかけたが、まずは秘密の規模が違い過ぎた。

■世界樹計画■
Posted by よあ - 2013.02.06,Wed
 彼女の属するギルドのマスターは、かつての上司によく似ていた。
 褐色の肌に碧の瞳。髪の色合いは流石に違うが、やたらと目立つ赤毛、と文字にしてしまえば一絡げである。開けっ広げにものを話し、感情の向かうまま言葉を走らせ、頭が追いつかなくなると「うあー」なんて呻いてオーバーヒートする。そうとは見えないのに料理の腕が良いところまでそっくりで、相違点といえば性別くらいしか思いつかなかった。
 聖騎士団を遠く離れ、一冒険者として活動している自分が、あの女性を果たして上司と呼んでいいのかは疑わしい。それでも籍は名簿に残っているだろうからと、ギルド「Rays」唯一のパラディンは自分を説得するかのように頷いた。
 上司には手紙すら送れないまま、かれこれ数ヶ月が過ぎようとしていた。そろそろ連絡しなくては、とギルドマスターの顔を見るたびに思うのだが、今のパラディンにとってはペンが剣よりも重い。
 第一、何を書けばいいというのだろう。あの上司が、自分に関して知りたい情報などあるのだろうか。
 白紙のままの便箋を、今日も棚に戻す。

■視点03/宿ロビーのカウンターにて■
Posted by よあ - 2013.02.06,Wed
『冒険者を優遇するのは結構だけどさ、程々にしておいて欲しいよね。
 そりゃ日常生活のフォローをするのは良いと思うよ? 迷宮暮らしってつまり非人間的な暮らしの頂点だし、どんな人間だって快適な生活がしたいだろうし、そう考えるとエトリアは冒険者の街だもん、余所じゃ冒険者ってだけで迷惑顔されるんだから、ここでくらい大事にされたってバチは当たらないさ。
 でもさ、孤児院はやり過ぎじゃないかな、冒険者遺児のための。子供ができたら、それは親が責任を持って育てるべきだと思うんだよね。冒険者なんていつ死ぬか分かんないような仕事はやめて、……うん、孤児院じゃなくて、職業訓練所とか作れば良かったんだ。その方がずっと、街のためにもなったよ、きっと。
 だってあの孤児院って、親が迷宮から帰って来ないことを前提にしてるんだよ。自分が死んでも子供は大丈夫だからって、死にに行く馬鹿がどれだけ居ると思ってるんだろう。子供の方は孤児院に居る限り、「自分は馬鹿の子供です」って看板背負って生きてるようなもんなのに、自覚もなしに子供を裏切って捨てるなんて、そんなの人間のすることじゃないよ、鬼か悪魔か、って言うか悪意がない分タチが悪いよ。オマケに頭が悪いなんて最悪だって、君もそう思わない?』
 バードが漏らした長い愚痴に、赤毛の幼馴染は返事をしなかった。しばらくの沈黙の後、痺れを切らして「ねぇ」と畳み掛けると、彼は渋々といった様子で口を開いた。
『自分の親を、そんな風に言うもんじゃない』
 その声の無機質さ、酔いではない何かが醒める感触を、はっきりと覚えている。



 バードが帰り着いた宿屋の一室は、いつも通りの暗闇と静寂に包まれていた。
 暗闇と言っても月影星影程度の明るさはあるし、耳を澄ませば穏やかな寝息を聞き取ることもできる。寝息の主をうっかり起こしてしまわないように、バードは忍び足で自分のベッドへと向かった。
 糊の効いたシーツに腰を下ろしさえすれば、あとは部屋が暗かろうが明るかろうが関係がない。装身具を外し、帯を解き、服を脱ぐ。水差しの水を洗面器に張り、身体を簡単に拭く。手探りで引っ張り出した寝巻きに着替え、髪を緩く編んでしまえば、就寝の準備は完了である。
 その頃には目もすっかり部屋の暗さに慣れていて、バードは友人の寝顔を見やり、溜息をついた。
 まだ十番鐘も鳴っていないというのに、赤毛のソードマンは実によく眠っていた。寝姿の行儀の良さは、起きている時の彼を知る者であれば死んでいるのではないかと疑いたくなるほどだ。鼾を掻かないのは勿論、寝返りすら打たない。
 妙なところで折り目の正しい奴、という彼に対する評価は、バードの中でここ十年ほど揺らいだことがなかった。より厳密に期間を求めれば十一年と四ヵ月、初めて出会ったその日からである。
 バードが育ったのは執政院ラーダ直轄の、冒険者遺児を集めた孤児院だった。
 孤児院の子らは、一般市街の子供達と遊ぶことはまず無い。一般市街の子供達が孤児院の周辺に寄り付かないからだ。善良な堅気の親は、子供に強く言い聞かせる──「冒険者なんてならず者の子供と遊んではいけません」と。
 だから、あの緋色の頭とぶつかった日のことはよく覚えている。まだバードでなかった金髪の少年、つまり自分は、鼻歌交じりに空を見上げて歩いていた。相手は家の仕事の手伝いの最中で、宅配の荷物を抱え、近道をしようと院の敷地を駆けていた。一方は空を見ていて、一方はとても急いでいて、しかも周りは背高のっぽの草むらだったのがいけなかった。思い切りぶつかって、二人とも草をへし折って転んだ。
 地面から身を起こしながら相手を見て、会ったことない子だ、と思った。勢い良く走っていたせいだろう、自分よりも一層派手に転がっている。身なりから察するに、孤児院の子ではない、旅人でもない。──自分なんかが話し掛けてはいけない子だ。
 直感して、脱兎の如く草むらを逃げ帰ろうとした。
 その背中に、思いもよらぬ言葉が掛かった。
『ごめんな、今度ちゃんと謝るから!』
 足は止まらなかったが、少しだけ遅くなった。相手の言葉に、戸惑い、驚いた。
『オレは怪我してないから、平気だから!』
 向こうも起き上がったのだろう、ガサガサと草の揺れる音。それが徐々と遠ざかっていく。
『だから、また今度な!』
 敷地に立ち入ったことも、自分とぶつかったことも、他言せず忘れてしまえば良いものを、少年はあろうことか「また今度」と言った。

 相手のことなど、質素なりに小奇麗な服装と、鮮やかな髪の赤さ以外には思い出せなかった。と言うか、それ以上見る前に逃げ出してしまった。
 しかし、それは些細なこと。
『こんにちは。こないだは、ごめん』
 わざわざ執政院の窓口(係の者もさぞ困っただろう)を経て、孤児院に挨拶に来る子供など、心当たりは他になかった。



 彼は馬鹿なのだろう、と思う。限りなく確信に近く、バードはそう思っている。
 愚直。この二文字以外に彼──赤毛のソードマンを語るに相応しい言葉はなかったし、今のところはあえて他を探す必要もなかった。
 だが、古い喜劇の主人公のような、滑稽なほどの真っ直ぐさが、時々眩い。彼のことを内心で笑いものにしながら、ふと、人を指さし笑う自分の姿に気付いて愕然とする。轡を並べて生きることは、きっと元々無理だったけれど、少しばかり参考にするくらいは許されるんじゃないだろうか。
 とはいえ、バードは己の寝相の悪さに重い至って溜息を吐いた。教わったり感化されたりで直るものなら、苦労はしないのだ──捩じ曲がった性根だって同じことである。

■幼馴染■
Posted by よあ - 2013.02.06,Wed
 執政院ラーダに認められた冒険者ギルドのうちのひとつ、「Rays」。
 名前は短すぎて当たりも障りもない、構成メンバーにさほどの特徴があるわけでもない。要は記憶に値しない有象無象の一角に過ぎないのだが、彼はその四文字をなるべく忘れないようにしよう、と日々努力していた。
 理由は簡単、彼がバードとしてギルド名簿の六番目に名を連ねているからである。
 己が所属しているギルドの名を忘れるとはどういうことか、と至極もっともな指摘を受ければ、そもそもの結成から、彼が所属するに至った経緯について語らざるを得ない。
 ギルドを結成するのに頭数が足りないからと、幼馴染の強引な勧誘により署名をせざるを得なかったこと。
 その時点で既に、ギルドの名前は決定していたこと。
 ギルド認定申請書類の記入はギルドマスター自らの独力、もとい単独犯行であったため、後日ラーダより書類不備の旨で返送されてきたこと。
 仕方なく全員で修正作業を行ったが、ギルド名のつづりがメンバーの目に触れたのはその時が初めてだったこと。
 とにかく運営がいい加減なのである。冒険者の寄り集まりといえばそんなものなのかも知れないが。
 それにしたって、六人しかいないメンバーの中でも、ギルドマスターが最年少、かつ最も無鉄砲というのはいかがなものだろうか。彼とてギルドマスターとさほど歳の差のない若造ではあるものの、無謀な言動はマスターの髪の毛一本分もないと自覚している。
 それでも今日まで彼らがギルドとしての体裁を保ち、冒険者として名を馳せているのは、メンバーそれぞれの実力、努力、そして運の賜物だった。
 このギルドで良かったのか、そうでもないのか、あるいは冒険者になるべきではなかったのか。確信は持てないが、彼は「Rays」というギルドをそれなりに気に入っている。

■吟遊詩人とギルド名■
Posted by よあ - 2013.02.06,Wed
 いわゆるメディック、医術士の卵として、それなりに努力をしてきたつもりだった。
 医学院では日々女の子と戯れ、勉強をし、女の子と戯れ、枯れたジジイの研究を手伝い、女の子と戯れ、学友と杯を交わし、女の子と戯れ、レポートの期日には提出窓口へとスライディング、女の子と以下略。手を抜く余地など一縷もない、全力投球の学生時代を送ってきたと断言できる。
 にも関わらず、現在の彼が有しているのはメディックとしての職業資格のみであった。職はない、つまり無職、付け足すなら安宿を転々とする身の上につき住所不定である。
 少し考えれば分かりそうなものだったのだ。就職先は、在学中にしっかり定めておくべきだと。

■メディック話多いな!■
Posted by よあ - 2013.02.06,Wed
「まさか……いや、そりゃたまに『あれ?』と思わないでもなかったけどね。俺だって腐っても医術に携わる人間だから、骨格やら何やらについては人より知ってるつもりだし。パッと見てとまでは行かなくても、日頃の観察や接触の中で気付きそうなもんだよ。
 だけどまさか君が、その、なんだ、こんなに長く付き合って、戦地だの窮地だのを切り抜けてきて、食事はもちろん寝る場所まで共にして、ああそういえば、第三階層で水路に寝袋落っことして一枚の毛布に包まって寝たなんてこともあったなぁ。そこまでして確信が持てなかったんだから、やっぱり俺の目が節穴だったのかも知れない。
 気を悪くしないでくれ、頼むから。君が可愛らしさに欠けてるとかそういうことじゃないんだ、って言うか、君が隠そうとして隠してたことなんだから、俺に気付かれたら本末転倒だろ? うん、えらく可愛らしいとは思ってたよ。寝起きのふにゃっとした声とか目が開ききらなくて眠そうな時の仕草とかそれでもきちんと挨拶はするトコとか妙にドキドキさせられたし、まぁ最近は流石にちょっと慣れてきたけど、それがどうしたって話だな。
 ん? 背丈? そりゃまぁ……そうだな、下手にフォローするのもマズイかな。確かに『小さくてカワイイカワイイ』するには無理があると思う。けど、そんなの好みの問題であって、君の魅力がどうこうって話じゃないだろ。
 だからつまり、その、君がまさか──女の子……だった、なんて」
「……何の話だ?」
 アルケミストは首を傾げた。
 メディックは長台詞を語ったポーズそのままに、
「君がまさか女の子だったら、俺は非常に嬉しかったという話だよ」
 とてもとても可愛らしくのたまった。
 アルケミストは火炎の術式を起動した。

■願望■
Posted by よあ - 2011.02.06,Sun
! 本作品は女性向けです

 女性向けWebアンソロジーに寄稿させて頂いたもので、企画サイトが消滅していたためこちらに格納することにしました。

 CPは赤目ケミ×ショタパラです。無印とIIで一番好きなグラフィック同士を掛け合わせたらこうなった。でも主人公はペット(狼)というよく分かんない作品です。
Posted by よあ - 2008.02.08,Fri
 パーティの盾、ギルドのパラディンが風邪を引いた。
 戦士としての訓練をいくら積み上げたところで、人間は細菌の攻撃に対しては無力だ。もちろん彼女には体力の貯金があるから、完治にさほどの時間はかからないだろうけれども──

「風邪といったら、まぁこんなもんか」
 見事な手際でスープを作り上げ、「ほい」と皿を差し出すソードマン。メディックはそれを受け取ろうとして、慌てて手を引っ込めた。
 熱いものは持ち慣れていないのだ。振り返った先に盆が置いてあったのを、これ幸いと拝借する。

「ありがとう」
「お前に礼言われてもなぁ。冷めないうちに持ってってやれよ」
「お、おう」

 皿の中にはポタージュ状に煮込んだジャガイモと、刻んだ野菜、ベーコンとハーブが少々。体が温まるのはもちろん、栄養のバランスも良好で、噛む必要がないくせに腹もちもいい。申し分のない病人食だった。
 日頃は頼りないと思っているだけに、こうして段取り良く準備をされると面喰らってしまう。目の前に立つ赤毛の彼は、剣士ではなく料理人を志すべきだったのではないだろうか。

■拍手御礼ログ/ところでこれってどこの台所?■
Posted by よあ - 2007.12.07,Fri
 風呂場である。

「前くらい隠しなさい」
「んだよ、男同士隠したってしょうがないだろ」
「同感だ。むしろ全開こそが、男らしく潔いスタイルだと言えるんじゃないか?」
「……僕、そろそろ上がるね」
「あっ逃げるな、ずるいぞ!」

 濡れたタイルで滑りでもしたのか、ぎゃー!と悲鳴が上がった。
 桶の転がる音がけたたましく響き渡り、次いで派手な水音。

「……どういう会話をしているんだ、あいつらは」
「と言うか、状況が気になりますね。死人が出ないといいのですが」

 湯船に浸かったパラディンの表情を見るに、死人がどうのという発言は冗談ではないらしい。
 レンジャーは遠い目になって、男湯と女湯を隔てる高い壁を見上げた。

 自分が最年長なのは重々承知していたが、彼らは子供っぽいとか、そういう次元を超えている気がする。
 男という生き物は総じて、なのだろうか。それともこのギルドの人員が特別……

(あぁ、いや、駄目だ考えるな)

 仮にも命を預け合う仲間なのだ、間違っても馬鹿呼ばわりはするまい。
 決意した端から「みきゃ?!」と奇怪な悲鳴が耳に入り、レンジャーの精神力を削いでいった。

■拍手御礼/没文書/浴室にて■

共同浴場に入れない設定の子が居るのを、自分で失念していたという……orz
Posted by よあ - 2007.06.30,Sat
 思い出の中で、彼は隠れんぼをしていた。
 ベッドの下に滑り込み、息を潜め、鬼が来るのを待っていた。

 そんなものはいなかったのに。

 一人で遊んだ、鬼のいない隠れんぼの記憶。
 ふと目覚めた真夜中、ベッドの下に、その頃の自分がまだ居るような気がした。

■視点05/回想■
Posted by よあ - 2007.06.29,Fri
『探し物があるんだ』

 ギルドのメディックがそんなことを言い出したものだから、五日間、ひたすら地面を見つめて歩き回る羽目になった。
 何とはなしに俯き気味で歩くのと、探し物をして腰を屈めて歩くのでは、疲労度がまるで違う。特に重装備のパラディンが、次いでソードマンが音を上げた。哨戒役のレンジャーは、最初から捜索には加わっていなかったから、結局後衛二人が地面と睨めっこを続ける格好になった。

『俺が今つけてるイヤリング、これと同じものを探してる』
『はぁ?! このジャングルの中で、イヤリングひとつ! 冗談だろ!』

 思わず叫んだ感想は、アルケミストの中では今も変化していない。ただ「友達の落し物なんだ」というメディックの苦笑いが、殴りつけるには寒々しいものだったから、無下にできなかったというだけで──

 本当に見つけるつもりは、なかったのだ。

 ポケットの中で、ちゃり、と金属の触れ合う感触。
 咄嗟に隠してしまったから、しっかりと確認したわけではないのだが、すぐ後ろを歩いているメディックの耳飾りと確かに同じものだ。肉厚の金属板を吊るしただけの、シンプルな金色。表面の錆が、ポケットの裏地に幾度も引っかかった。

 早く、教えてやるべきなんだろうか。
 野放図にのたうつ羊歯を踏み越え、アルケミストは迷う。
 後続の男は、探し物をしているようには到底見えなかった。視線は確かに地面付近をうろついているのだが、眼球はほとんど動かない。どちらかといえば物思いに耽るあまり、視線がついつい下を向いている、といった風情だ。

 メディックのことをよくは知らない。アルケミストとは宿の二人部屋を共用していて、戦術の話、錬金術や医術に関する情報交換も頻繁にするけれど、個人的な経歴となると話は別だ。
 それでも自軍の衛生兵について、知っていることは幾つかある。樹海に潜るのは今のパーティが初めてだということ。オフ日でも必ず、樹海の前までは足を運んでいること。時折宿を抜け出し、夜の街をフラフラ散歩する癖があること。散歩コースは気まぐれらしいが、帰りは必ず、宿の東側の小路からであるということ。

「なぁ、お前の友達って」

 気付いたら、振り向いてそんなことを口走っていた。突然のことにメディックが目を丸くする。

「なに?」
「……あ、いや……」

 エトリアの街の東の外れ、樹海を見下ろす丘の上には、迷宮に散った冒険者達のための慰霊碑がある。

 お前の友達って──もう、

 まさか、そんなことは訊けない。

 けれど半分出かかった問いを引っ込めることも出来ず、アルケミストは苦し紛れに続けた。

「冒険者だったんだな」
「うん。医術学校に来たのもそのため、っていう人でね。
 飛び級で卒業して、優秀だったのに、エトリアで腕一本で暮らすんだ、ってさ」
「で、この階層で落としたのか」

 ──命を。

「らしい。もう少し気をつけて欲しかったよ」

 メディックは困ったように笑った。

「でも、半分は諦めているものだから。君も充分付き合ってくれたし……そろそろ探索に集中しようか」
「見つからなくてもいいのか?」
「俺たちパーティが生きて帰ることの方が、大事さ」

 注意力も落ちてきてるし、と何でもないことのように言って、彼はアルケミストを追い抜いていった。

■視点05/冒険者ギルドの試練■
Posted by よあ - 2007.06.29,Fri
「君、どれだけ神経太いんだよ」

 連れのメディックに尋ねられて、ソードマンは咀嚼活動を一時停止させた。
 しかし口内の諸々は、発声を妨げるには充分すぎる量だ。もっさもっさと顎を動かす。
 プツリと切れるトマトの皮の食感、煮崩れたタマネギの芳醇な甘さ、絶妙のバランスで加えられた香辛料の風味を楽しんだ後、ようやく白衣の青年に向き直った。

「これは野菜スープです」
「見れば分かる」
「じゃあ、あれは何だった?」
「……植物、ではない、けど」

 メディックは、暗い表情で己の皿を見下ろした。
 メインディッシュたる鶏の照り焼きは幻だったかのように消え去り、付け合せの野菜だけが綺麗に皿を飾っている。可愛らしいオレンジ色のニンジンと、鮮やかな緑色に茹で上がったアスパラガス、どちらも冷め切って可哀想なことになっていた。
 それでも口に運べば、バターの香り、シャッキリした歯ざわり、野菜特有の瑞々しい甘みが楽しめるはずだ。

 その青臭さが、生きた植物の香りが、今の彼の神経には堪えるのだろう。

 迷宮の中で生まれて初めて、人の形をしたものに刃を向けた。
 憎悪を滾らせた視線、斬りつけた瞬間に耳に届いた苦鳴、点々と砂に散った緑色も、全て生々しく記憶に残っている。血溜りから立ち上ってくる匂いは、樹木を傷付けた時のそれによく似ていた。

 だから何だ。

 「もらうぜ」と一言断って、ソードマンはフォークを伸ばした。アスパラガスの表皮に、銀色の先端が沈む。ずぷり。
 もちろんアスパラガスは悲鳴を上げない。代わりに対面の男が顔をしかめた。

「君はもう少し、まともな倫理観を持ってるヤツだと思ってたよ」
「そりゃどうも。オレもお前のことは、も少し想像力のあるヤツだと思ってたね」

 サクサク繊維を噛み千切り、大げさに肩をすくめて見せる。

「自分が何を食べてるのか、知らないワケじゃないだろ? 料理に口なしってだけだ」

 一度屠殺場にでも来るか?と尋ねると、メディックは片手で目元を覆ってしまった。

■視点01/モリビト殲滅作戦■
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