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Posted by - 2024.05.18,Sat
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Posted by よあ - 2011.02.01,Tue
誰より強く、誰より気高く。
 そのつもりだった。
 公宮の高札を見上げる、その瞬間までは──



 衛士は俺達の地図を見ると、兜の奥から明るい声を出す。
「迷宮の1階の地図を作る任務。無事に達成したようだな」
「当然よ。ありがとう」
 錬金術師のアルフはそう言って慇懃に頭を下げ、そしてくるりと衛士に背を向けて歩き出した。ここにもう用はない、そう言わんばかりの態度は冷淡と言って良いくらいだが、この眼鏡女が疲れ果てたパーティメンバーを気遣っていることは何となく分かる。
「あ、ありがとうございましたっ」
 人参色の髪の少女がバネ人形のように頭を下げ、アルフの後を追った。ユリスという名のこの医術師は始終おろおろしていて、命を預けるには心許ない。極力世話にならずに済ませようと、俺は思った。
「お疲れ様」
 ユリスの保護者のように、レンジャーのコラーダが長い金髪を翻して歩き出す。この男は口数が少なくて面倒がなさそうだが、意思の疎通も難しそうだ。先が思いやられる。
「ありがと、お疲れ様!」
 ギルドマスターでもあるソードマンのリコが、屈託ない笑顔を俺に向けた。そして彼女は、赤毛の頭を傾け怪訝そうに俺を見た。
「どしたの、ディー。早く街に戻ろうよ」
「あぁ……、」
 俺は煮え切らない返事をして街への階段を見上げる。ミッション『ハイ・ラガード入国試験』は無事に達成された。
 迷宮の一階の地図を書く、それがこの国で冒険者となる者が最初に課せられる試練だ。
 迷宮。冒険者。ギルドマスター。そして衛士。
 ほんの少し以前まで、俺にとっては全く別の意味を持っていた言葉達。
 俺は唇を噛んで、衛士を振り返った。



「ない……ない」
「本当か? よく探したのかよ、ディー」
「当たり前だ!」
 隣に立つハルキに向けて怒鳴り散らしながらも、俺の目は忙しなく高札の文字を追っていた。
 掲げられているのは、公宮衛士の最終試験の結果だ。約三ヵ月間、俺達は実戦と試験とを兼ねた訓練に参加していた。
 だが──ない。どこにもない。受験番号〇〇六番、「カナデンシス」の名前。俺の名前。
 ハルキは疑り半分といった様子で俺に倣い、そして「うわ本当だ」と口元を覆った。
「お前が落ちたのかよ。剣の腕は一番だったお前が」
「で、どうしてお前は受かってるんだ?」
「知るか。お前みたいな無愛想の骨頂とも付き合える、人当たりの良さだろ?」
「言ってろ」
 俺はハルキの胸を強く押して、未だ人だかりとなっているその場から離れた。
「あっ、おい何処行くんだよ」
「酒場。……衛士になれないんなら、飲んでも問題はないだろ」
「お前なぁ……」
 呆れたような声が後ろから掛かったが、ハルキ自身が追いかけて来るようなことはなかった。



 目の前に立つフルフェイスヘルムの奥は、おそらく見慣れた顔だ。
「どうだ。公宮仕えってのは」
 俺はハルキに向かって尋ねた。ハルキは一旦自分のヘルムに手を掛けて、すぐにそれを離した。
「堅苦しいところだよ。旧友と会ったところで、顔も見せらんねぇ」
「旧友ってほどの付き合いねぇだろ」
「ははっ、それもそうだ」
 ハルキとは、公宮衛士の試験の時に知り合った。友人と呼べるほどの付き合いはない。ハルキは誰とでもそれなりに仲良くじゃれていたから、同期の全員が友達だ!くらいのことは思っているのかも知れない。
「ディー、お前は冒険者か。また険しい道だな」
「生憎、この街と剣の他に生き方を知らない」
 これは本当の事だ。
 小さな頃から、誰より剣の腕が立った。自然と俺は公宮衛士を目指すようになり、そう思えば一層修練に身が入った。
 そのなれの果てが、今の俺だ。衛士崩れの冒険者。そこいらの剣士では身に付けて動くこともままならない甲冑を纏い、重厚な盾を手に、その重装備でパーティを護る『パラディン』。
 俺とハルキとを隔てたのは、一体何だったのだろう。
 コイツにあって、俺にないもの。人当たりの良さ? まさか。その逆に、俺にあってコイツにないものなら山ほど思い当たる。剣の実力、思慮、損得や優先順位といった概念。
「──まぁ、そういうことだから。今後も顔は合わすかも知んねぇ」
 俺が告げると、ハルキはヘルムの中で反響するほどの声をあげた。
「そうか、これからも会えんのか! 良かったー、あれが今生の別れになるのかと思ってたからな」
 ばんばんと背中を叩かれ、俺は迷惑そうな顔を隠しもせずにハルキを振り払った。



 打ち上げは「鋼の棘魚亭」で行われることになった。熟練も新米も関係なく、この酒場には冒険者が集う。
 ──が、俺はその喧騒にうまく紛れることが出来ず、エール酒の入った木のジョッキを片手に店の裏手へと出た。
 耳を騒がす冒険者達の声も、このくらい遠ざかればそれなりに心地よい。無造作に積まれた樽に腰掛ける。
 ぼんやりとエールの泡が弾けるのを眺めていると、背後から声が掛かった。
「こんな場所に居たのか、カナデンシス」
 振り向くと、長い金髪を頭の後ろでひとくくりにしたコラーダが、俺と同じようにジョッキ片手に立っていた。
「何にも言わずに消えちゃうから、みんな大騒ぎしてたよ。『ディーが消えた!』って」
「消えたも何も、ここに居るだろうが」
「そうなんだけどね」
 コラーダは断りもなく俺の隣に座った。しばらくの沈黙の後、おもむろに口を開く。
「おれが君を指名した理由、分かる?」
 そういえば、冒険者ギルドの斡旋リストから俺を選んだのはコラーダだと聞いている。他にもパラディン候補者は多数居たにも関わらず、だ。
「……知らねぇ。剣の腕が立つから、か?」
「そう、おれが注目したのは君の略歴。信頼できるなと思ったんだ。衛士志望だったんだって」
「そうだ」
「でも、試験に落ちた」
「……そうだ」
 俺は苦々しく応えた。少し考えれば誰にでもバレることだが、出来ればその事実は穿り返して欲しくない。
「その理由、おれ、何となく今日のミッションで分かった。……カナデンシス、君はパラディンだ。その前は衛士を志願してた」
「だから?」
「でも、おれには君の守りたいものが分からなかった。自分の命の他に、『何かを護りたい』って気持ちがないのなら」
 コラーダは刃物を抜く滑らかさで立ち上がった。
「衛士はもちろん、冒険者としても失格だ」
 さらりとしたその一言に、俺は何も言い返すことが出来なかった。

007■「不採用の理由」コラーダとカナデンシス
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