忍者ブログ
目的に応じて適当に
[171] [170] [169] [168] [167] [166] [165] [164] [163] [162] [161
Posted by - 2024.05.18,Sat
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

Posted by よあ - 2008.03.16,Sun
 階段を下りると、マスターは普段通り、カウンターの中でグラスを磨いていた。
 俺がねぐらとして貸してもらっている二階の部屋は、元々は酔い潰れた人間を押し込めておく部屋だったそうで、マスターいわく「ゲロくさいかも知れんが、勘弁してくれよ」。何にせよありがたいことだ。寡黙だが気の良いマスターへの、せめてもの恩返しにと、俺は雑巾を手に取った。
 途端にマスターの冷静な声が響く。
「テーブルならもう拭いた」
「えぇ?!」
 つるっと雑巾を取り落とす俺。
「じゃ、じゃあ床の掃除でも」
「済ませてある」
「……買い出し、とか」
「必要ない」
 手伝えることが一切ないってのも、それはそれで悲しいもんだ。いや、いつものことだけど……あーうん、そうだよな。早起きできない俺が悪いんだよな……
 腕まくりした腕もそのままに黄昏ていると、マスターは唐突にグラスをカウンターに置いた。
「それより聞いたぞ、エベネー。ギルドに入ったそうだな」
「え? あ、ああ、確かに入った……けど」
「大丈夫なのか、お前みたいなのが入って」
 マスターの声音は、俺の身を案じているにしては、ちょっとばかり剣呑だ。ってことは心配されてるのは俺じゃなくて、ギルドの仲間の方なんだろうな。
「大丈夫だって、探索要員として加入したわけじゃないから」
「……どういうことだ?」
 籍のない人間が生活していくのは面倒なので、冒険者ギルドの名簿に名前だけは書いておいたのだ。それだけのことで市民とほぼ同等の権利が得られるのは、公国が手ずから迷宮探索を推奨しているからに他ならない。
 俺もまさか本当に冒険者として、ギルドに加入する日が来るとは思ってなかったが……まぁ、人生そんなこともあるさ。
「万一の時に冒険者ギルドや故郷に連絡してやる人間が必要だろ? だからその連絡役に、たまたま手が開いてて、ココで生活してる俺が納まったってわけ」
 雑巾ごと右手を振りながら、俺は名前を貸すことになったギルドのメンバーについて思いを馳せた。
『もしかしたらあたし達、迷宮から戻らないかも知れないから……だから、お願いします』
 そう言って頭を下げたギルドの責任者は、幼さの抜け切らない、まだまだ少女の顔立ちをしていた。そんな子があんな科白を吐いてまで、迷宮に潜らなければならない理由は何だろう。
 彼女の仲間達にしてもそうだ。子供と大人の境界線みたいな年頃で、それがどうして、あんな危険地帯に飛び込まなきゃならないんだ。
 ──帰ってきたら聞いてみようかな。
 心情が顔に出ていたのか、マスターは初めて表情を緩めてくれた。
「お前の仕事が、万一の時にしかないわけじゃないだろう」
 たとえば今のマスターみたいな、温かい笑顔で迎えてやることとか、か。

006■「無職・居候・音楽系」 エベネー
Comments
Post a Comment
Name :
Title :
E-mail :
URL :
Comments :
Pass :   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
TrackBack URL
TrackBacks
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
よあ
自己紹介:
修行中の身。
自分に作れるものなら、何でも作るよ。
ブログ内検索
最新CM
最新トラックバック
アクセス解析
Template by mavericyard*
Powered by "Samurai Factory"
PR
忍者ブログ [PR]