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Posted by - 2024.05.17,Fri
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Posted by よあ - 2008.04.07,Mon
 歳の離れた兄には、我が家に何が起こったのか、よく分かっていたはずだった。
『おとうさんは?』
『友達と、ちょっと出掛けるって』
『……あそびいったの? おとななのに?』
『遊びに行ったわけじゃないよ』
 兄ちゃんは、巧い嘘で誤魔化せるほど大人ではなかったし、それは今も同じだと思う。
 エトリアから届けられた手紙に、とりあえず目を通す。便箋の上には丸っこくて大きい文字が並び、差出人の日常に特に変わりのないことを伝えていた。
 天候のこと。あたしの体を心配していること。元々は兄ちゃんのギルドに所属していたアルフやユリス、コラーダにもよろしく……あぁ、一人ずつに手紙を出すほど書くことがないんだな。それから店を正式に、母さんから引き継いだこと。あたしがいなくなって、人手が足りなくなったので、店員の女の子を新しく雇ったこと。その子が結構可愛いって、知るかそんなの。あんたが冒険者として好き勝手やってた間、あたしと母さんがどれだけ苦労したと思ってんだ。
 内容の薄い手紙を、あたしは折り畳んで封筒にしまった。
宿のロビーには陽気な女将さんも同宿の冒険者もいない。開け放たれた玄関から、遠く響く夜の気配が流れ込んできているだけだ。
 ラガード公国に来てから、子供の頃の出来事を思い出すことが増えた。それはこうして、一人で過ごす時間が増えたせいなんだろうな、と思う。
 兄ちゃんのことはあまり好きじゃなかったけど、だからといって嫌いでもなかった。歳が離れて一緒に遊ぶことが少なかった分、邪険にされた思い出も少ないんだ。
 兄ちゃんが冒険者をやめて、店に引っ込んでから、母さんは随分あたしに甘くなった。
 あたしがラガードに行きたいと言い出した時も、一度は強硬に反対されたものの、結局『必ず帰ってくるのよ』の一言で送り出してくれた。それは信頼の置ける仲間──樹海探索の経験者であるアルフたちが、同行を申し出てくれたお陰もあるんだろうけど。家出同然に冒険者になった兄ちゃんが、きちんと家に帰ってきたっていうのが大きいんだと思う。
 母さんは、本当はこう言いたかったに違いないんだ。
『私を置いて、どこかへ行かないでね』
 ──父さんみたいに。
 兄ちゃんは髪も目の色も母さんに似たけど、あたしのあかがねの色の瞳は父さん譲りだ。自分の瞳の色以外のことで、父さんのことを思い出すことなんか、あたしにはない。でも、もしかしたらこの街で──もしかするかも、しれないじゃんか。
 それを人に話したことはないから、あたしは単にお転婆が嵩じて冒険者の道に入ったんだと思われてる。それでいいかな、と封筒を回しながら思う。
 本当のことを知らせたら、兄ちゃんが今すぐにでもあたしを連れ戻しに来るんじゃないか、なんて、あたしは他愛も無い想像をして笑った。

008■「手紙」 リコ




妄想は正義なのでウチのギルドでは青ソド男が永久欠番なんだよ!とかそういう。
赤ソド子と同じ目の色してるんだよね、あの人。
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