目的に応じて適当に
Posted by よあ - 2008.03.16,Sun
ラガードは面白い街だ。平坦な土地に築かれたエトリアとは違い、起伏に富んだ街並みをしている。白亜の眩い商い通りがあるかと思えば、湿った薄闇に満ちた路地裏があり、街そのものが迷宮みたいで──歩いていると、胸が躍る。
とはいえ皆が皆、そう感じるとは限らないみたいだ。おれの隣で「はー」と溜め息をついたのは、幼馴染のユリス。
おれが冒険者になったのも、エトリアを離れてこんな街にいるのも、全ては彼女のためだって言っていい。
どうしたのかな、と様子を窺っていると、ユリスは「はー」と溜め息を繰り返した。顔も体格も子供っぽいのに、仕草は年寄り臭さに満ちていた。
「ねぇ、コル」
「なんだいユリス」
おれは即座に聞き返す。先に口を開くのはいつもユリスだ。そう決まっている。
「この街、薬の名前も材料も、エトリアとは違うんだ」
「そりゃあ、違うだろうね」
あの街では樹海から得た素材を用いた、独自の医術体系が完成されていた。ラガードにも世界樹はあるが、エトリアと同じ薬剤が入手できるはずはない。
「だからね、わたし、ちゃんとみんなの治療、できるのかなぁ」
「大丈夫だよー。ユリスは実戦経験もあるし、基礎医学も修めてるじゃない」
薬泉院から東の広場へと向かう道々、おれはユリスを元気付けようと頑張った。傍から見ればそうは見えないのは承知で、それでもかなり頑張った。
「薬の名前は違ってても、成分とか効果とかはおいおい理解すればいいよ」
「……ん、そうだね。ありがとー、コル」
広場の傍の角まで来たところで、ユリスはやっと口元を緩めてくれた。
本当は、駆け寄ってくるリコや軽く手を振るアルフに、暗い顔を見せたくなかっただけかも知れない。それは確かめようがないし、おれには分からない。
三人寄れば、とはよく言ったもので、女の子三人はきゃーきゃーと再会の挨拶を交わし、雑談交じりの情報交換を始めた。ウェイト的には「雑談>>>情報交換」のような気がするが、聞き耳立ててないと「聞いてなかったの!」と叱られるので、黙って耳を傾けることにする。
今夜の宿は、旅人向けの小さな宿屋らしい。三人部屋と、個室が一つ、朝食付き。値段がそこそこ安いのは、リコが交渉を頑張ってくれたんだろうか。
アルフはラボが借りられないことを嘆いていた。錬金術師組合は、公国に正式に認可を受けた人間に対してしか「貸しラボ」を貸してくれない。エトリアでも同じような制度はあったから、アルフも予想してはいたらしいが、それでも不服そうだった。
「でね、素材が違うから、お薬も違うんだって。アルフも触媒が違ったりはしない?」
「素材は組合が管理してるからね。価格の地域差はあるけれど、何とかなりそうよ」
「そっか、よかった。あたしとコラーダはどうとでもなるし──あとは数が揃えば、いつでも迷宮に潜れるな」
リコがさっくり話をまとめて、宿への道案内を始めた。
街に入っていの一番に冒険者ギルドに向かったのは、正解だった。ギルドメンバーを募りたい旨を伝えると、フリーの状態の冒険者の中から、何人かをピックアップして連絡を取ってくれるという。早ければ、明日にでも候補の人と話ができるらしい。
冒険者ギルドが親切なのは、公国がそれだけ世界樹の調査に力を注いでいるということだろう。どこの馬と骨と知れないおれ達でも、頭数を揃えてやれば役に立つかもしれない、と期待されている。
とはいえおれの前を行く三人を見ていると、不安は募るばかりだった。願わくば新しい仲間が、おれの味方でありますように。もし男だとしたら、女三人という性と数の暴力に屈しない漢でありますように。そして──
「ねぇ、コル」
「なんだいユリス」
「……どうしたの? 怖い顔して」
「ううん、何でも。──新しい仲間は、いい人だといいね」
おれの懐と、左腕、左右のブーツ。それぞれ一本ずつ、ナイフが仕込んである。
そんなもの、人間相手に振るいたくはなかった。
004■「女が三人」 コラーダ
とはいえ皆が皆、そう感じるとは限らないみたいだ。おれの隣で「はー」と溜め息をついたのは、幼馴染のユリス。
おれが冒険者になったのも、エトリアを離れてこんな街にいるのも、全ては彼女のためだって言っていい。
どうしたのかな、と様子を窺っていると、ユリスは「はー」と溜め息を繰り返した。顔も体格も子供っぽいのに、仕草は年寄り臭さに満ちていた。
「ねぇ、コル」
「なんだいユリス」
おれは即座に聞き返す。先に口を開くのはいつもユリスだ。そう決まっている。
「この街、薬の名前も材料も、エトリアとは違うんだ」
「そりゃあ、違うだろうね」
あの街では樹海から得た素材を用いた、独自の医術体系が完成されていた。ラガードにも世界樹はあるが、エトリアと同じ薬剤が入手できるはずはない。
「だからね、わたし、ちゃんとみんなの治療、できるのかなぁ」
「大丈夫だよー。ユリスは実戦経験もあるし、基礎医学も修めてるじゃない」
薬泉院から東の広場へと向かう道々、おれはユリスを元気付けようと頑張った。傍から見ればそうは見えないのは承知で、それでもかなり頑張った。
「薬の名前は違ってても、成分とか効果とかはおいおい理解すればいいよ」
「……ん、そうだね。ありがとー、コル」
広場の傍の角まで来たところで、ユリスはやっと口元を緩めてくれた。
本当は、駆け寄ってくるリコや軽く手を振るアルフに、暗い顔を見せたくなかっただけかも知れない。それは確かめようがないし、おれには分からない。
三人寄れば、とはよく言ったもので、女の子三人はきゃーきゃーと再会の挨拶を交わし、雑談交じりの情報交換を始めた。ウェイト的には「雑談>>>情報交換」のような気がするが、聞き耳立ててないと「聞いてなかったの!」と叱られるので、黙って耳を傾けることにする。
今夜の宿は、旅人向けの小さな宿屋らしい。三人部屋と、個室が一つ、朝食付き。値段がそこそこ安いのは、リコが交渉を頑張ってくれたんだろうか。
アルフはラボが借りられないことを嘆いていた。錬金術師組合は、公国に正式に認可を受けた人間に対してしか「貸しラボ」を貸してくれない。エトリアでも同じような制度はあったから、アルフも予想してはいたらしいが、それでも不服そうだった。
「でね、素材が違うから、お薬も違うんだって。アルフも触媒が違ったりはしない?」
「素材は組合が管理してるからね。価格の地域差はあるけれど、何とかなりそうよ」
「そっか、よかった。あたしとコラーダはどうとでもなるし──あとは数が揃えば、いつでも迷宮に潜れるな」
リコがさっくり話をまとめて、宿への道案内を始めた。
街に入っていの一番に冒険者ギルドに向かったのは、正解だった。ギルドメンバーを募りたい旨を伝えると、フリーの状態の冒険者の中から、何人かをピックアップして連絡を取ってくれるという。早ければ、明日にでも候補の人と話ができるらしい。
冒険者ギルドが親切なのは、公国がそれだけ世界樹の調査に力を注いでいるということだろう。どこの馬と骨と知れないおれ達でも、頭数を揃えてやれば役に立つかもしれない、と期待されている。
とはいえおれの前を行く三人を見ていると、不安は募るばかりだった。願わくば新しい仲間が、おれの味方でありますように。もし男だとしたら、女三人という性と数の暴力に屈しない漢でありますように。そして──
「ねぇ、コル」
「なんだいユリス」
「……どうしたの? 怖い顔して」
「ううん、何でも。──新しい仲間は、いい人だといいね」
おれの懐と、左腕、左右のブーツ。それぞれ一本ずつ、ナイフが仕込んである。
そんなもの、人間相手に振るいたくはなかった。
004■「女が三人」 コラーダ
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