目的に応じて適当に
Posted by よあ - 2008.03.16,Sun
「エトリアのギルドでは、五人パーティが推奨されてたよね。なんで?」
あたしは何かを知りたいとき、まずはアルフに声を掛ける。アルフなら大抵のことは答えてくれるし、答えが分からなくても、どうやって調べればいいかを教えてくれるからだ。
「あなた、それも知らないで旅に出てきたの?」
アルフは荷物の最終点検の手を止めずに言った。言葉だけ見ると冷たい人みたいだけど、その表情に軽蔑の色はない。出来の悪い子の面倒を見るみたいな、「仕方ないなぁ」というオーラは出てるから、ちょっと悪いな、と思う。
「最大の理由はアリアドネの糸と、樹海磁軸の機能の限界。あれは人数が多過ぎると、動作が不安定になるらしいから。あとは単純に統制の取れた戦闘ができるかどうか、通路で同時に戦える人数だとか」
そういう制限がなければ、人数が多いに越したことはないでしょうね、とアルフ。
「おそらくはハイ・ラガードで、新しい仲間を募ることになる。考えておいて」
「そりゃあ、考えてるけど。でも、四人ってこともあるかもよ」
「あのね、リコ」
アルフは眼鏡の奥の目を吊り上げた。今度ははっきりと不機嫌だ。人差し指をあたしの胸元に突き付けて、それだけじゃなく、とん、と突いた。
「四人じゃ足りない。あなた、お兄さんのギルドを見て何も学ばなかったの」
お兄さん。──あたしの兄ちゃんで冒険者で、エトリア屈指のギルドのマスターだった。あたしはあんまり、好きじゃなかったけど。
「だって、エトリアとこっちとじゃ違うかも……」
「私達は命を担保にして迷宮に潜るの。それは『世界樹の迷宮』に入る冒険者なら誰でも同じ。万一の時に故郷への手紙と、運が良ければ棺桶も、送る人間が必要でしょう?」
アルフは兄ちゃんのギルドのメンバーとして活動していた時期があって、世界樹の迷宮がどんな場所なのかも知っているだけに、言葉がずしりと重かった。
棺桶。あたし達が死ぬかも知れないってこと。そして運が悪ければ、無言の帰宅さえ出来ないってこと。
「や、やめようよ。仲間は街に着いてから探せばいいじゃない、ね?」
成り行きを見守っていたユリスが、わたわたと割って入ってきた。ユリスも、ついでにコラーダも、アルフと一緒に迷宮に潜っていたことがあるんだけど、考え方はやっぱり人それぞれみたいだ。
アルフは「そういう問題じゃない」って唇を尖らせたけど、それ以上何かを言う気もないみたいで、むっつりと押し黙った。馬車の中に気まずい沈黙が降りる。
「それで、その、新しい仲間。どんな職業の人がいいかなっ」
強引に口を開いたのは、ユリス。声の高さが空気を全く読めていないけど、この場で発言する勇気は凄い。何だか悪い気がして、あたしも乗っかる。
「何はなくとも前衛だ、ぜんえー。あたし一人じゃちょっと怖いし」
「わたしやコルじゃ、守りが心細いもんねぇ」
「確かに。今のメンツは、全体的に打たれ弱いわ」
建設的な内容だと踏んだのか、アルフも加わってくれた。
あの職もこの職も、と話していくうちに、話題は職業から性格の話に移っていく。
「ともあれ戦術面において、パーティの和を乱さない人間であることは鉄則ね」
「きょーちょーせーのある人間がいいってこと? それはどこでも同じだろ」
「そうだねぇ、優しい人がいいねー」
アルフは「何か違う」みたいな顔をしてたけど、あたしとユリスは知ったこっちゃない。「ねー」と顔を合わせる。
「あと、他に条件っていえばー」
ごとん。重い音が響いた。あたし達が揃って音の方を振り返ると、ここ何日かすっかり寝たきり(?)になってたコラーダが、毛布の隙間から体を起こすところだった。
「…………」
コラーダはマフラーの下で、ぼそっと口を開いた──けど、聞こえない。
「え?」
「……とこ」
「なーに? コル、聞こえないよー」
馬車は相変わらずゴトゴト揺れ続けている。ユリスが耳に手を添えて聞き返すと、コラーダもマフラーを引き下げて、珍しくキッパリと言った。
「男がいい」
…………。
そこは可愛い女の子を期待するのが、普通の男の人じゃないかなぁ、と思うんだけど。
女三人に男一人の旅は辛かったらしい。ずっと寝てたのも、実はそのせいだったりして。
003■「新しい仲間は」 リコ
あたしは何かを知りたいとき、まずはアルフに声を掛ける。アルフなら大抵のことは答えてくれるし、答えが分からなくても、どうやって調べればいいかを教えてくれるからだ。
「あなた、それも知らないで旅に出てきたの?」
アルフは荷物の最終点検の手を止めずに言った。言葉だけ見ると冷たい人みたいだけど、その表情に軽蔑の色はない。出来の悪い子の面倒を見るみたいな、「仕方ないなぁ」というオーラは出てるから、ちょっと悪いな、と思う。
「最大の理由はアリアドネの糸と、樹海磁軸の機能の限界。あれは人数が多過ぎると、動作が不安定になるらしいから。あとは単純に統制の取れた戦闘ができるかどうか、通路で同時に戦える人数だとか」
そういう制限がなければ、人数が多いに越したことはないでしょうね、とアルフ。
「おそらくはハイ・ラガードで、新しい仲間を募ることになる。考えておいて」
「そりゃあ、考えてるけど。でも、四人ってこともあるかもよ」
「あのね、リコ」
アルフは眼鏡の奥の目を吊り上げた。今度ははっきりと不機嫌だ。人差し指をあたしの胸元に突き付けて、それだけじゃなく、とん、と突いた。
「四人じゃ足りない。あなた、お兄さんのギルドを見て何も学ばなかったの」
お兄さん。──あたしの兄ちゃんで冒険者で、エトリア屈指のギルドのマスターだった。あたしはあんまり、好きじゃなかったけど。
「だって、エトリアとこっちとじゃ違うかも……」
「私達は命を担保にして迷宮に潜るの。それは『世界樹の迷宮』に入る冒険者なら誰でも同じ。万一の時に故郷への手紙と、運が良ければ棺桶も、送る人間が必要でしょう?」
アルフは兄ちゃんのギルドのメンバーとして活動していた時期があって、世界樹の迷宮がどんな場所なのかも知っているだけに、言葉がずしりと重かった。
棺桶。あたし達が死ぬかも知れないってこと。そして運が悪ければ、無言の帰宅さえ出来ないってこと。
「や、やめようよ。仲間は街に着いてから探せばいいじゃない、ね?」
成り行きを見守っていたユリスが、わたわたと割って入ってきた。ユリスも、ついでにコラーダも、アルフと一緒に迷宮に潜っていたことがあるんだけど、考え方はやっぱり人それぞれみたいだ。
アルフは「そういう問題じゃない」って唇を尖らせたけど、それ以上何かを言う気もないみたいで、むっつりと押し黙った。馬車の中に気まずい沈黙が降りる。
「それで、その、新しい仲間。どんな職業の人がいいかなっ」
強引に口を開いたのは、ユリス。声の高さが空気を全く読めていないけど、この場で発言する勇気は凄い。何だか悪い気がして、あたしも乗っかる。
「何はなくとも前衛だ、ぜんえー。あたし一人じゃちょっと怖いし」
「わたしやコルじゃ、守りが心細いもんねぇ」
「確かに。今のメンツは、全体的に打たれ弱いわ」
建設的な内容だと踏んだのか、アルフも加わってくれた。
あの職もこの職も、と話していくうちに、話題は職業から性格の話に移っていく。
「ともあれ戦術面において、パーティの和を乱さない人間であることは鉄則ね」
「きょーちょーせーのある人間がいいってこと? それはどこでも同じだろ」
「そうだねぇ、優しい人がいいねー」
アルフは「何か違う」みたいな顔をしてたけど、あたしとユリスは知ったこっちゃない。「ねー」と顔を合わせる。
「あと、他に条件っていえばー」
ごとん。重い音が響いた。あたし達が揃って音の方を振り返ると、ここ何日かすっかり寝たきり(?)になってたコラーダが、毛布の隙間から体を起こすところだった。
「…………」
コラーダはマフラーの下で、ぼそっと口を開いた──けど、聞こえない。
「え?」
「……とこ」
「なーに? コル、聞こえないよー」
馬車は相変わらずゴトゴト揺れ続けている。ユリスが耳に手を添えて聞き返すと、コラーダもマフラーを引き下げて、珍しくキッパリと言った。
「男がいい」
…………。
そこは可愛い女の子を期待するのが、普通の男の人じゃないかなぁ、と思うんだけど。
女三人に男一人の旅は辛かったらしい。ずっと寝てたのも、実はそのせいだったりして。
003■「新しい仲間は」 リコ
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