目的に応じて適当に
Posted by よあ - 2008.03.16,Sun
わたし達がお世話になっているのは、乗り合い馬車とかそういうのではなくって、ふつーの商店の、ふつーうの荷馬車だ。
『旅費は少しでも抑えておかないと』
そう言ってたのは錬金術師のアルフ。わたしの知らない間に、お店の人と話をまとめてくれてた。わたしの医術師資格や、エトリアの執政院でもらった書状や、いろんなものが交渉の役に立ったらしいけど、よくは分からない。
分かってるのは、あと半日くらいで、馬車を降りなきゃいけないってこと。
まだ半日もあるの、ってリコは目を真ん丸にしていたけど、リコは世界樹の大きさを理解できてないんだと思う。すぐ近くにあるように見えるのは、あれがものすごく大きいからなんだ。
わたしはエトリアの地下迷宮の広さを思い出して、ぶるっ、と身震いした。あれと同じ「迷宮」が、街の真ん中、と言うよりも真上にある……それって危なくないのかな。
「街に入ったら、まずは食事だね、食事。遅めのランチになるかなぁ」
リコはピクニックにでも出かけるみたいな笑顔だった。ううん、ハードなピクニックみたいな生活が続いていたから、落ち着いてご飯を食べられるのが嬉しいんだ。みんなそうだと思う。
だけどアルフは、「ふー」と溜め息をついて、眼鏡の弦を軽く弾いた。
「リコ。あなた、これから見ず知らずの街で暮らすってこと、分かってる?」
「分かってるって。言うじゃん、腹が減っては戦は……」
「戦闘だって、迷宮に入って好き勝手できるわけじゃないでしょう。私達の所持金は有限で、ハイ・ラガードにはツテもコネもない。早急に果たすべきは?」
「はたすべきは……」
リコは口ごもった。わたしはハラハラして見守っていたけど、リコもちゃんと考えていたみたいで、もごもごはすぐに言葉になる。
「アルフが錬金術師組合に行って、ユリスが施薬院に挨拶に行って。その間に、あたしが宿の確保?」
自信はなかったみたいで、最後の方はアルフに尋ねるみたいな声になった。
アルフは学校の先生みたいに、落ち着き払った動作で頷いてみせる。
「食事の後にそうすれば充分。けど、私は最初に冒険者ギルドに行くべきだと思う」
「ギルドに?」
「そ。冒険者としての登録手続きに、どれだけ日数が掛かるか分からないからね。必要な書類があれば、早めにもらっておきたいし」
そうすれば今夜の宿で熟読なり記入なり出来るでしょう、と続ける。
ギルドを立ち上げるのには、いろいろ手続きが要るんだ。ご飯や寝るところは、お店が開いている限りいつでも大丈夫だけど。
こういうことを考えられるあたりが、アルフは大人だなぁって思う。わたしの頭は、とっくにお昼ご飯のメニュー、それから施薬院の人たちへの挨拶の言葉で一杯になってる。
「じゃ、そうしよう。ユリスもそれでいい?」
「え」
リコから突然話を振られて、わたしは慌てた。もちろん反対なんて、しない。
「うん。うんうん。いいよ、そうしよう」
「よし、決まり」
街に入ってからの行動予定表が、リコとアルフの中ではキレイに固まったみたいだった。
わたしはそこに一筆も入れていない。寂しいけど、しょうがない。
しょうがないとは思うけど、コルの意見もぜんぜん聞いてないな。コル、起きたら怒るかな。
怒るコルっていうのが想像できなかったから、まぁいいか、と私は思った。
002■「発言権」 ユリス
『旅費は少しでも抑えておかないと』
そう言ってたのは錬金術師のアルフ。わたしの知らない間に、お店の人と話をまとめてくれてた。わたしの医術師資格や、エトリアの執政院でもらった書状や、いろんなものが交渉の役に立ったらしいけど、よくは分からない。
分かってるのは、あと半日くらいで、馬車を降りなきゃいけないってこと。
まだ半日もあるの、ってリコは目を真ん丸にしていたけど、リコは世界樹の大きさを理解できてないんだと思う。すぐ近くにあるように見えるのは、あれがものすごく大きいからなんだ。
わたしはエトリアの地下迷宮の広さを思い出して、ぶるっ、と身震いした。あれと同じ「迷宮」が、街の真ん中、と言うよりも真上にある……それって危なくないのかな。
「街に入ったら、まずは食事だね、食事。遅めのランチになるかなぁ」
リコはピクニックにでも出かけるみたいな笑顔だった。ううん、ハードなピクニックみたいな生活が続いていたから、落ち着いてご飯を食べられるのが嬉しいんだ。みんなそうだと思う。
だけどアルフは、「ふー」と溜め息をついて、眼鏡の弦を軽く弾いた。
「リコ。あなた、これから見ず知らずの街で暮らすってこと、分かってる?」
「分かってるって。言うじゃん、腹が減っては戦は……」
「戦闘だって、迷宮に入って好き勝手できるわけじゃないでしょう。私達の所持金は有限で、ハイ・ラガードにはツテもコネもない。早急に果たすべきは?」
「はたすべきは……」
リコは口ごもった。わたしはハラハラして見守っていたけど、リコもちゃんと考えていたみたいで、もごもごはすぐに言葉になる。
「アルフが錬金術師組合に行って、ユリスが施薬院に挨拶に行って。その間に、あたしが宿の確保?」
自信はなかったみたいで、最後の方はアルフに尋ねるみたいな声になった。
アルフは学校の先生みたいに、落ち着き払った動作で頷いてみせる。
「食事の後にそうすれば充分。けど、私は最初に冒険者ギルドに行くべきだと思う」
「ギルドに?」
「そ。冒険者としての登録手続きに、どれだけ日数が掛かるか分からないからね。必要な書類があれば、早めにもらっておきたいし」
そうすれば今夜の宿で熟読なり記入なり出来るでしょう、と続ける。
ギルドを立ち上げるのには、いろいろ手続きが要るんだ。ご飯や寝るところは、お店が開いている限りいつでも大丈夫だけど。
こういうことを考えられるあたりが、アルフは大人だなぁって思う。わたしの頭は、とっくにお昼ご飯のメニュー、それから施薬院の人たちへの挨拶の言葉で一杯になってる。
「じゃ、そうしよう。ユリスもそれでいい?」
「え」
リコから突然話を振られて、わたしは慌てた。もちろん反対なんて、しない。
「うん。うんうん。いいよ、そうしよう」
「よし、決まり」
街に入ってからの行動予定表が、リコとアルフの中ではキレイに固まったみたいだった。
わたしはそこに一筆も入れていない。寂しいけど、しょうがない。
しょうがないとは思うけど、コルの意見もぜんぜん聞いてないな。コル、起きたら怒るかな。
怒るコルっていうのが想像できなかったから、まぁいいか、と私は思った。
002■「発言権」 ユリス
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