目的に応じて適当に
Posted by よあ - 2007.06.29,Fri
『探し物があるんだ』
ギルドのメディックがそんなことを言い出したものだから、五日間、ひたすら地面を見つめて歩き回る羽目になった。
何とはなしに俯き気味で歩くのと、探し物をして腰を屈めて歩くのでは、疲労度がまるで違う。特に重装備のパラディンが、次いでソードマンが音を上げた。哨戒役のレンジャーは、最初から捜索には加わっていなかったから、結局後衛二人が地面と睨めっこを続ける格好になった。
『俺が今つけてるイヤリング、これと同じものを探してる』
『はぁ?! このジャングルの中で、イヤリングひとつ! 冗談だろ!』
思わず叫んだ感想は、アルケミストの中では今も変化していない。ただ「友達の落し物なんだ」というメディックの苦笑いが、殴りつけるには寒々しいものだったから、無下にできなかったというだけで──
本当に見つけるつもりは、なかったのだ。
ポケットの中で、ちゃり、と金属の触れ合う感触。
咄嗟に隠してしまったから、しっかりと確認したわけではないのだが、すぐ後ろを歩いているメディックの耳飾りと確かに同じものだ。肉厚の金属板を吊るしただけの、シンプルな金色。表面の錆が、ポケットの裏地に幾度も引っかかった。
早く、教えてやるべきなんだろうか。
野放図にのたうつ羊歯を踏み越え、アルケミストは迷う。
後続の男は、探し物をしているようには到底見えなかった。視線は確かに地面付近をうろついているのだが、眼球はほとんど動かない。どちらかといえば物思いに耽るあまり、視線がついつい下を向いている、といった風情だ。
メディックのことをよくは知らない。アルケミストとは宿の二人部屋を共用していて、戦術の話、錬金術や医術に関する情報交換も頻繁にするけれど、個人的な経歴となると話は別だ。
それでも自軍の衛生兵について、知っていることは幾つかある。樹海に潜るのは今のパーティが初めてだということ。オフ日でも必ず、樹海の前までは足を運んでいること。時折宿を抜け出し、夜の街をフラフラ散歩する癖があること。散歩コースは気まぐれらしいが、帰りは必ず、宿の東側の小路からであるということ。
「なぁ、お前の友達って」
気付いたら、振り向いてそんなことを口走っていた。突然のことにメディックが目を丸くする。
「なに?」
「……あ、いや……」
エトリアの街の東の外れ、樹海を見下ろす丘の上には、迷宮に散った冒険者達のための慰霊碑がある。
お前の友達って──もう、
まさか、そんなことは訊けない。
けれど半分出かかった問いを引っ込めることも出来ず、アルケミストは苦し紛れに続けた。
「冒険者だったんだな」
「うん。医術学校に来たのもそのため、っていう人でね。
飛び級で卒業して、優秀だったのに、エトリアで腕一本で暮らすんだ、ってさ」
「で、この階層で落としたのか」
──命を。
「らしい。もう少し気をつけて欲しかったよ」
メディックは困ったように笑った。
「でも、半分は諦めているものだから。君も充分付き合ってくれたし……そろそろ探索に集中しようか」
「見つからなくてもいいのか?」
「俺たちパーティが生きて帰ることの方が、大事さ」
注意力も落ちてきてるし、と何でもないことのように言って、彼はアルケミストを追い抜いていった。
■視点05/冒険者ギルドの試練■
ギルドのメディックがそんなことを言い出したものだから、五日間、ひたすら地面を見つめて歩き回る羽目になった。
何とはなしに俯き気味で歩くのと、探し物をして腰を屈めて歩くのでは、疲労度がまるで違う。特に重装備のパラディンが、次いでソードマンが音を上げた。哨戒役のレンジャーは、最初から捜索には加わっていなかったから、結局後衛二人が地面と睨めっこを続ける格好になった。
『俺が今つけてるイヤリング、これと同じものを探してる』
『はぁ?! このジャングルの中で、イヤリングひとつ! 冗談だろ!』
思わず叫んだ感想は、アルケミストの中では今も変化していない。ただ「友達の落し物なんだ」というメディックの苦笑いが、殴りつけるには寒々しいものだったから、無下にできなかったというだけで──
本当に見つけるつもりは、なかったのだ。
ポケットの中で、ちゃり、と金属の触れ合う感触。
咄嗟に隠してしまったから、しっかりと確認したわけではないのだが、すぐ後ろを歩いているメディックの耳飾りと確かに同じものだ。肉厚の金属板を吊るしただけの、シンプルな金色。表面の錆が、ポケットの裏地に幾度も引っかかった。
早く、教えてやるべきなんだろうか。
野放図にのたうつ羊歯を踏み越え、アルケミストは迷う。
後続の男は、探し物をしているようには到底見えなかった。視線は確かに地面付近をうろついているのだが、眼球はほとんど動かない。どちらかといえば物思いに耽るあまり、視線がついつい下を向いている、といった風情だ。
メディックのことをよくは知らない。アルケミストとは宿の二人部屋を共用していて、戦術の話、錬金術や医術に関する情報交換も頻繁にするけれど、個人的な経歴となると話は別だ。
それでも自軍の衛生兵について、知っていることは幾つかある。樹海に潜るのは今のパーティが初めてだということ。オフ日でも必ず、樹海の前までは足を運んでいること。時折宿を抜け出し、夜の街をフラフラ散歩する癖があること。散歩コースは気まぐれらしいが、帰りは必ず、宿の東側の小路からであるということ。
「なぁ、お前の友達って」
気付いたら、振り向いてそんなことを口走っていた。突然のことにメディックが目を丸くする。
「なに?」
「……あ、いや……」
エトリアの街の東の外れ、樹海を見下ろす丘の上には、迷宮に散った冒険者達のための慰霊碑がある。
お前の友達って──もう、
まさか、そんなことは訊けない。
けれど半分出かかった問いを引っ込めることも出来ず、アルケミストは苦し紛れに続けた。
「冒険者だったんだな」
「うん。医術学校に来たのもそのため、っていう人でね。
飛び級で卒業して、優秀だったのに、エトリアで腕一本で暮らすんだ、ってさ」
「で、この階層で落としたのか」
──命を。
「らしい。もう少し気をつけて欲しかったよ」
メディックは困ったように笑った。
「でも、半分は諦めているものだから。君も充分付き合ってくれたし……そろそろ探索に集中しようか」
「見つからなくてもいいのか?」
「俺たちパーティが生きて帰ることの方が、大事さ」
注意力も落ちてきてるし、と何でもないことのように言って、彼はアルケミストを追い抜いていった。
■視点05/冒険者ギルドの試練■
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